第四資料室報告書 No.02「四皇子塚の御神渡」

明治期の断片資料の余白に、小さく「御神渡?」と書かれていた。

当地に湖はなく、氷結の記録も存在しない。その語だけが、場違いに残されている。しかも一度は消そうとした痕跡がありながら、完全には消されていない。

資料によれば、四皇子塚周辺では一定期間ごとに掘削痕が確認されていたという。だが土壌の攪拌は新旧が混在し、同一人物の作業とは考え難い。前任担当者は掘削地点を結ぶと一本の「線」が現れると記し、この現象を私的に「御神渡」と呼んでいた。彼はやがて依願退職し、その後まもなく亡くなっている。

主人公は、退職した担当者の墓所が四皇子塚と直線距離で数百メートルに位置することを知り、現地調査へ向かう。塚には掘削痕はなく、記録としては問題はない。だが墓石の表面には、光の角度でのみ浮かび上がる細い亀裂が走り、その上部には擦過の跡が残っていた。それは資料の余白に残された「消し跡」と酷似していた。

再雇用職員は言う。

「彼はな、宝そのものより、どこに埋まっているか“線”が大事だって」

掘られていない塚。消されなかった文字。途中で止められた線。

それらは偶然の連なりなのか、それとも見えない軌跡の痕跡なのか。

第四資料室は、真相を解明しない。

ただ、消しきれなかった揺らぎだけを保存する。

本作は、九州神話の土地を背景に、「線」とは何かを静かに問いかける、記録型ミステリーである。

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