第四資料室 第四資料室報告書 No.05「白峯陵 帰京不可」
第四資料室。そこは、保存期限を過ぎた公的記録に「生」か「死」かの引導を渡す、公表されない埋葬地だ。
文化庁の方針転換により、各地から廃棄対象として送られてくる資料の性質が変わり始めた。文化財指定や調査報告ではなく、民間伝承、慰霊祭、原因不明の事故、そして怨霊に関する公文書。焼却か保存かだけを決める第四資料室に届いたのは、「崇徳院関係記録」と題された一群の書類だった。そこには学術的価値を認め難いとして廃棄が推奨されていたが、途中に挟まれていた一枚の和紙が、すべてを変える。そこにあったのは、伝承上の存在とされてきた崇徳院の血書そのものを思わせる異様な文面だった。やがて香川の文化財保護委員会から連絡が入り、白峯陵で異変が起きていること、そしてその血書が本来そこから動かされてはならないものだった可能性が浮かび上がる。主人公は上司の命令と現地の要請を受け、飛行機もフェリーも避けて車で四国へ向かうことになるが、その途中で立ち寄った筑紫神社では「帰京不可」と記された紙片が現れ、血書が単なる歴史資料ではなく、何かを封じる結界そのものだったことが示唆される。白峯陵へ至る夜の道行き、文化財行政の合理主義、怨霊をめぐる国家の後始末、そして「動かしてはならないもの」を動かしてしまった代償。本作は、崇徳上皇の怨霊伝承を怪談としてではなく、制度と信仰の隙間に封じ込められた“管理される怪異”として描く。静かな公文書の文体の奥から、国家ですら扱いきれない古い恐れが立ち上がる。